東京店の川本です。
アメリカを代表するシンガーソングライターの一人として、デビュー以来多大なる影響を各世代の人々に与えてきたボブディラン。現在でも年間100公演ほどのライブ活動を中心にして第一線で活躍しています。
そんなことで偉大なアーティストであることはわかるのですが、我々の学生時代はなかなかとっつきにくい存在であったことも事実です。チャリティーソング「We Are The World」で、あの音程の外れた歌い方をするおじさんね、という一般的にはなんともひどい認識レベルでした。私のディラン・デビューも比較的遅く高校1年くらいだったと思います。近くの図書館で借りたのがこの「欲望(1976)」でした。この頃のディランは「ローリングサンダーレヴュー 」と銘打ったツアーを行なっていまして、これは事前の宣伝を行わず、抜き打ち的にアメリカ各地の都市を訪れて小規模のホールでコンサートを行なうというもので、巨大産業化したロック・ミュージックに対する原点回帰の姿勢を提示した企画でした。このツアーメンバーを主として録音されたのがこのアルバムで、No.1を獲得するとともにディラン最大のセールスを記録しました。
このアルバムに収録されている名曲「Hurricane」は、殺人の冤罪で投獄されたボクサーの無実を訴えたプロテストソングでした。久し振りに「bar sora」でこの曲を聴きましたが、長いけれどドラマチックな展開と激しいアコースティックギター、ハーモニカ、そしてディランのヴォーカルに感動しました。その他にも「Oh, Sister」、「Sara」、「One More Cup Of Coffee」など秀作揃いのこのアルバムは実に聴き応えがあります。
この前作の「血の轍(1975)」は非常に暗い作風なのに対して、「欲望」は対照的なラテンな音で、その時その時で好みはかわりますが、この頃のディランは脂がのっていて長いキャリアの中でも一つのピークであることは間違いないと思います。